待ち伏せ


−−こういうのに乗って大海原に出るっての、夢だったんだよなぁ。

手すりにもたれかかった大下の顔が、一瞬、少年にもどる。その横顔に半ば見惚れ、半ば苦笑しながら、鷹山は約束の刻限を待った。

−−俺、さ、口説かれたことあるんだぜ、好きなだけ乗せてやるから付いて来いって。
−−物好きなやつがいたもんだな。
−−ガキの頃の話。…乗っちまえばよかったかなぁ。

名残惜しそうな語尾に誘われて、鷹山は大下の方に向き直った。
−−今ごろ、乗せなくてラッキーって言ってるぜ。そのどこのどいつだか…。

大下の目が笑う。

−−そいつ…、タカの、恋人。
photo by marionさん

もし大下が、対する者だったとしたら…。
たとえば、今待ち伏せている相手が大下だったとしたら…。
その想像に、背中がぞくりとする。
恐らく自分は、全てを投げうって大下を追い詰めようとするだろう。…刑事であることも全て捨てて。

鷹山は悪態をつきながら、自身の幸運にそっと感謝した。
そして、大下を口説き落とせなかった銀星会にも…。

もう、ナンパされんなよ、勇次。

[ Back ]